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皇位継承危機が問うもの 井上亮【日経】20200101

2020年4月11日(土)

たぶんどなたがなったとしても,日常の生活の変化が起きることはないように思う.
少なくとも当座は.
空位になったらどうなるのか,あまり考えたことはない.

諸々の王のなかから,王のなかの王として,たぶん武力や宗教的な権威によって,
他の王と,その部族を統合してきたのが,古代の大王だったのだろう.
それでも諸々の王たち,あるいはその後継者たちは,それぞれの神を祀っていたのだろう.
いや,王たちばかりでなく,諸々の民もまた自らの神を祀っていたのだろう.

たかだか150年ばかりの歴史ではないか,とも思う.

担いだ人たち,担ごうとした人たち,
そして,あるいは担ごうとしている人たちの問題……ではないか,とも思う.

そういえば,さいきん,この感染症の猛威を前に,
イギリスの女王がテレビで発言をしている様子が映されていた.
女王の家系は,かならずしもイングランドにはないらしいが,
それでもグレイトブリテンにすむ人たちには,ある種の象徴的な意味があるのだろう.
この列島の国でも,同じだろうか.

歴史的に長く続いた家系,というのであれば,
いまは廃されてしまったけれど,エチオピアの王家も長い歴史を誇っていたと聞く.

あるいは大陸はどうだったのだろうか.
大陸における諸々の王朝の興亡を貫く何かがあるのだろうか.
天命の前に,人びとの王朝の興亡は,相対的なものでしかなっただろうか.

ずっと若いころ,そんなことも考えてみたいと思っていたことがあった.
そこで止まった……というより,あるいは後退してしまったみたいだ.

記事を書いた井上亮さんの「象徴天皇の旅」(平凡社新書))は,おもしろかった.

そういえば,いまの人は,「水」にとても関心が強いのだという.
水上交通,水資源……、おもしろく,とても重要なテーマだと思う.
以前,岐阜の知人の招待で,仲間と長良川で鵜飼いを見ながら,
そういえば鵜匠、長良川で鵜飼いを生業としている方たちは,国家公務員なのだ……,
そんなことを思い出していた.


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皇位継承危機が問うもの
2020/1/1付日本経済新聞 朝刊

新天皇の即位祝賀ムードに包まれた2019年と違い、今年は皇族減少、皇位継承危機の問題に向き合う年になるだろう。

天皇、皇后両陛下は歴代天皇陵への即位報告の締めくくりとして、19年12月初旬に東京都八王子市の昭和、大正天皇陵を参拝された。この際のニュース映像で大正天皇陵の長い石段に驚いた人がいたかもしれない。上皇ご夫妻も退位報告で参拝されたが、80歳代半ばのご夫妻が階段を上る姿は痛々しく見えた。

1927年(昭和2年)に大正天皇陵が造営された際、昭和天皇は25歳。高齢の天皇がこの石段を上ることは想定されていなかった。明治、大正期の男性の平均寿命は40歳代前半。人の考えは時代の枠組みに縛られる。

天皇陛下の次世代の皇位継承資格者は秋篠宮家の悠仁さま1人。皇室も晩婚・少子化と無縁ではなく、男系継承を続ければ皇統の維持はきわめて厳しい。戦後に皇籍を離脱した旧皇族の子孫の男子を皇室に復帰させる案を採用したとしても、確率論でいえばその先で同様の危機を迎える。

過去に例外なく男系で継承されてきた歴史は確かに重い。ただ、男系継承が天皇にとって絶対不可欠な原理かどうか、実証的に議論すべきだろう。古事記、日本書紀や続日本紀など天皇に関する史書に男系概念は見られない。男系継承が明文化されたのは明治憲法、旧皇室典範からだ。

古今の天皇の最大の使命は皇統の維持だった。男系というより、直系意識が強く、それゆえ皇統が2つに分かれた南北朝の争乱が起きた。直系継承の確率を高めるため、各時代の天皇は多くの子をなすことに努めた。50人以上の子女をもうけた平安初期の嵯峨天皇はじめ、20~30人の子があった天皇は数多く、側室制度があれば可能だった。一方、女性天皇では生理学上限界がある。

側室制度が存在した時代、男系継承は合理的選択だったのではないか。男系が天皇の原理か、合理的選択の結果なのか、丁寧に検証すべきだろう。側室制度というかつての枠組みが失われた現在、男系継承の合理性は失われている。

さらに、男系女系論議の山を越えたとしても、次に深い谷があることはあまり意識されていない。配偶者の問題だ。女性天皇の配偶者となった男性は皇后と同様、天皇を支える役割を求められる。男女平等ランキングで世界の下位に沈み、女性をサポートする男性像が定着していない日本社会にそれを受け入れる土壌はあるのか。

皇位継承危機は国民とは直接縁のない問題ではなく、社会のあり方を問う事柄かもしれない。

(編集委員 井上亮)



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