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片山善博の「日本を診る」(140)災害時における個人情報開示の是非──情報公開条例の改正で問題解決を 【世界】2021年7月

2021年7月9日(金)

熱海・伊豆山の土石流で,
消息不明者の氏名が公表されている.
いつもメディアが,氏名を教えろと「当局」に要求を繰り返すところだが,
この災害では,折り合いがついた,というところか.
たぶん,かならずしもそうではなく,被災住宅などの居住者情報が,かならずしもじゅうぶんに把握されていないために,被災者の捜索自体が困難だという所なんだろう.

それにしても,メディアにとって,氏名公表がなぜ必要なのか,よくわからないことがある.
いや,氏名公表自体が目的の報道もあったか.戦後の帰国者情報など,ラジオで流していたんだろう.いつごろまでやっていたのか,うっすら記憶にあるような,あるいは,そのような話を聞いていただけか.
被害者の氏名などを公表する意義がどの程度あるのか,よくわからない.
刑事事件でもそう感じる.

ずいぶん昔のことだけれど,まだ未成年の若いスタッフが免職になる事件があった.まぁ,悪いことをしたのだから,相応の報いがあった,ということか.ただ,未成年であることを考慮して,氏名は公表しない,としたのだったろうか.(でも,正確には後日,公開される資料には,たぶん氏名も記載されることになっていたと思うが.)
でも,氏名がわからなければ,事件の内容が明らかにならないわけではないだろう,と思うのだが.

今回,被災者の捜索するために,「当局」にとっても必要な情報を得るために……ではあるけれど,報道に依れば,居住者に関する情報を,それぞれの事情(DVなどらしいが)から精査した上で,公表に差し支えがない人たちについて,メディアなどにも公表することにしたとあった.
いや,大変だな,と思う.

それにしても,なぜこんなことになったのだろうか.

問題は,今回の災害では,やはり土石流を引き起こした原因,背景についての究明なんだろう,と思うし,
その上での対策の検討,他地域での類似例の検証など……となるように思うが,そういった災害,事件を深掘りするような報道こそが必要なんだけどな,と思う.

そういえば,最近,那珂川水害に対応する治水対策について,地元説明会があった,という報道があった.
被災地域の住民は,あるいは堤防のかさ上げなどを要望していたのかもしれない.それに対して,河川管理に当たる国の出先機関では,最近よく言われる流域治水などの観点から,従来とは異なる対策を提案しているようだ.しかし,記事は,そうした事情について,ほとんど触れてなくて,住民への説明に不足している……といった論調だったか.

ちょっと脱線したか,どこまで被災者情報などを公表するのか,もうすこし事前に調整しておく必要はありそうだな,と思う.
で,かつて当事者だった片山善博さんの提案.


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【世界】2021年7月

片山善博の「日本を診る」(140)

災害時における個人情報開示の是非──情報公開条例の改正で問題解決を


 今年は西日本を中心にして例年に比べて梅雨入りが早い。近年この時期から秋にかけて各地で集中豪雨が発生し、土石流やがけ崩れなどの土砂災害が多発する。そうした折に議論されるのが、被災して亡くなった方や行方不明になっている方の名前や住所を公表することの是非である。
 マスコミ関係者は、これらの情報を速やかに公表するよう自治体に求める。被災地に住む親族や友人の安否を気遣う人にとって、亡くなった方や行方不明者に関する情報は一刻も早く伝えてもらいたいから、マスコミを通じてこれらの情報が明らかにされることの意味は大きく、その報道に公益性があることは疑いない。
 また、行方不明者の名前や住所などの情報を救助や捜索に当たる機関や関係者と共有することは、救助活動や捜索活動をより重点的に行なうためにとても重要である。行方不明者に関する情報が公開されることによって、災害発生時の居場所や行動を知っている人から有益な情報が寄せられることも期待される。それは救助活動や捜索活動をより迅速かつ効果的に行なうことにつながる。

■名前の公表は情報公開条例に即して行なう

 では、災害時のこれらの情報は迷わず公表すべきということになるかといえば、ことはそれほど単純ではない。公表することに根強い反対論があるからである。理由はさまざまで、例えば亡くなった方の名前や住所が公表されると、マスコミなどが押しかけてはなはだ迷惑をする。だから公表するのはやめてほしいという人がいる。
 肉親を災害で失い悲嘆にくれている時に、取材の求めに応じるだけの気力も精神的余裕もない。それでも、訪れた人を追い返すわけにもいかないので、それなりに対応したが、とてもつらかった。かつて筆者は被災して亡くなった方の遺族からこんな話を聞かされたことがある。
 行方不明者の公表にも反対意見や慎重意見がある。もとより、必死で家族の無事を祈っている時にマスコミが押しかけてくることには強い違和感があるに違いない。
 ほかにもさまざまな事由がありうる。自宅が被災して行方不明者として名前が公表されたものの、当人はその日は他県に出向いていて難を逃れていた。運がよかったというべきだが、実は勤務先には病気で休むと連絡していたので、名前が公表されたことで大変バツの悪いことになった。災害時にこうした人の事情まで考慮する必要があるかどうかは議論のあるところだが、名前の公表がプライバシーの一端を晒す結果になったことは確かである。
 速やかに公表すべきと強く迫る人がいる一方で、絶対公表してほしくないという人もいる。その間で板挟みになるのは知事である。その知事の対応はさまざまである。中には、悩んだ末に情報を公表したことで「知事の英断」とマスコミから讃えられた知事もいた。マスコミにとっては、知事がエイヤッと決断し公表してくれたのだから、まさしく「英断」には違いない。だが、その「英断」を陰で苦々しく不快に思う人がいることも確かで、後に悶着の種を残すことにもなる。
 よく見られるのは、マスコミと役所側との間での「公表せよ」「いや、そうはいかない」という小競り合いである。筆者も、その小競り合いの現場にいる新聞記者から「県が頑なで情報を出さない。出させるにはどうすればいいか」と助言を求められることがしばしばあった。そうした折には、情報公開請求をしてみるよう勧めている。「出せ」「出さない」で押し合いへし合いをしてみても埒は開かず、生産的ではない。この問題は煎じ詰めれば、県が持っている情報を公開するかどうかに尽きる。ならば、、情報公開条例に基づいて情報公開請求をするのが最も王道であるはずだ。
 ただ、これにも難点がないわけではない。通常、情報公開請求への応答には数日を要するのが通例で、それだと翌日の朝刊に関連情報を載せたい記者の需要を満たすことはできないからだ。場合によっては訴訟に及んで長丁場になるかもしれない。しかし、一度この正規の手続きを踏んで決着をつけておけば、その後はその都度小競り合いをすることなく、迅速に判断され、スムースに処理されるようになる。

■情報公開条例をプラクティカルに改正する

 情報公開請求の手続きをすることで、この問題の本質が浮き彫りになる。まず、公表を迫る記者は決してゴリ押しをしているわけではなくて、記者自身の、あるいは読者を代弁して「知る権利」を行使しているにすぎないという立場が明らかになる。それを受ける知事の側も、決して「英断」や思いつきで公表の是非を判断してはならないことが了解される。
 公表の是非は情報公開条例の規定によって判断することになる。ただ、情報公開条例には、この問題を処理する際の的確な判断基準が必ずしも示されていない。条例の書きぶりは自治体ごとに多少の違いや特徴があるものの、総じてまず「情報は公開されるべき」との基本原則が示されるとともに、その例外として非公開にすべき情報の類型も規定されている。その一つが「個人に関する情報」である。
 ややこしいのは、それにも例外があって、「法令等の規定、または慣行として公にすることが予定されている情報」や「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」は、それが「個人に関する情報」であっても公開すべきこととされている。
 以上の規定を災害時の名前の公表に当てはめても、おそらく解釈の余地が大きくて、直ちに明確な回答を導き出すのは難しいだろう。ではどうすればいいか。現行の情報公開条例が抽象的で具体的な問題を解決するための指針になり難いのであれば、該当の規定をわかりやすく改正すべきだと思う。例えば、「災害で亡くなった者及び行方不明者の名前と住所は公表する」と条例に規定してあれば、知事はためらうことなく公表できる。後でトラブルが生じて裁判になったとしても、その条例の規定の当否は争われることになるかもしれないが、少なくとも条例の規定どおりの運用をした知事の責任は免れる。
 また、「遺族や家族の同意があった場合に限り公表する」と規定してあれば、知事はそのように取り扱えばよい。マスコミから「同意がなくても公表せよ」と迫られても、それは条例違反だと断ればいい。
 条例の規定をどうするかは、議会に決定権がある。これまで災害があるたびにこの問題で悩まされた知事であれば、早めに議会と相談し、よく議論した上で条例を改正してもらっておくのが賢明だろう。
 ちなみに、筆者は鳥取県知事時代に全国学力テストの結果を公開すべきかどうかで判断に迷ったことがある。公開の主張にも非公開の主張にも、それぞれ理があり、説得力がある。そこで県議会でよく議論した上で情報公開条例を改正してもらった。紙幅の都合上その内容を詳述できないが、興味と関心のある方にはネットを通じて鳥取県情報公開条例九条二項七号をご覧頂くようお勧めする。公表の是非をめぐり現実に困っている案件を、条例を改正することで実務的に解決した事例として紹介する次第である。


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鳥取県情報公開条例

第9条 実施機関は、公文書の開示請求があったときは、当該公文書を開示しなければならない。

2 実施機関は、開示請求に係る公文書に次の各号に掲げる情報のいずれかが含まれている場合には、前項の規定にかかわらず、当該開示請求に係る公文書を開示しないものとする。

(7) 小学校の児童、中学校の生徒又は義務教育学校若しくは特別支援学校の児童若しくは生徒(以下この号及び第18条の2において「児童等」という。)の全国的又は全県的な学力の実態を把握するため実施される調査の学級ごとの集計結果であって、児童等の数が10人以下の学級に係るもの
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