〔私見卓見〕 浸水想定区域の建築規制緩和を 設計事務所経営 土居志朗
2023年02月19日(日)
ほんとうのところ,どうすべきなのか,
どうすることがよりよいことなのだろうか,
そんな疑問というか,「自然災害」の報道を見聞きするたびに,思う.
数年前,真備町の水害が報じられたとき,
もともと氾濫の起こりやすい地形だったのだろう,
むかしは輪中がつくられていたとあった.
その輪中堤を壊して住宅が整備されていたとあった.
ちょっと前,広島市の北部の郊外部で土砂崩れがあった,
土質の関係などで,ちょっと危うい地域だったのだろう.
そこに住宅開発が及んでいったのだろう.
父親の田舎は,いまはどうなっているか知らないけれど,
谷戸のような土地に田んぼがあって,
実家は田んぼの近くではなく,そこからちょっと急な坂をのぼった丘の上にあった.
そこにポツンポツンと何軒かの農家があった.
たぶん古いころからの経験が,そんな立地につながっていたのではないか,と思ったことがあった.
住宅開発がすすみ,古い土地の記憶が薄れていくように思う.
古くからの生活の知恵もまた,忘れられていくだろうか.
記事の主張は,規制緩和というより,むしろ知性,技術などに応じた規制のありかたを検討すべきだということなんだろうと思った.
―――――――――――――――――――――――――
〔私見卓見〕 浸水想定区域の建築規制緩和を 設計事務所経営 土居志朗
2022/8/31付日本経済新聞 朝刊
私の故郷である新潟県村上市が8月上旬の大雨で床上浸水、車の水没、停電、断水などの被害にあった。この地域は1967年(昭和42年)にも大規模水害に遭ったことがあり、洪水・土砂災害ハザードマップが整備されている。
これを見ると今回の浸水箇所は0.5~3メートルの浸水予想区域であることが分かる。さらに土砂災害や河川が氾濫したと思われる場所は、特別警戒区域や重要水防箇所と重なっていて、防災・減災には過去の経験やデータが有用なことを改めて認識させられる。
水防法で洪水浸水想定区域に指定されたほとんどの市町村がハザードマップを公表しており、建築設計を生業とする私は設計の際、参考にして1階の床レベルを設定している。しかし、現実には次のような問題がある。
建築基準法ではいくつかの高さ制限があり、敷地の地盤面や前面道路の高さを基準としているが、水害に備えて1階の床レベルを高くしようとするとその分建物が上がり、規制に引っ掛かってしまう。特に狭い敷地の場合、敷地境界線などから斜めに立ち上がる斜線制限による制約を受けやすく、1階床レベルを上げると天井を低くしたり、床面積を減らしたりせざるを得ないこともある。居住性だけでなく、賃貸物件などでは収益性も落ちて大問題になる。
そこで、洪水浸水想定区域における高さ制限を想定浸水高の分だけ緩和して高床対応を促してみてはどうだろうか。逆に3メートル以上の浸水想定区域においては地階や1階の寝室を許可しないような規制も必要かもしれない。
高さ制限は日照や景観といった都市問題から生じたもので、それと不動産的利益は相反するが、水害は命に関わる重大事である。経済を取るか命を取るかというコロナ禍に似たジレンマだが、共に生命の維持に必要である以上、両方を取らなければならない。
国土強靱(きょうじん)化を目指す今、ちょっとしたルールの緩和が大きな効果を生み出すだろう。ルール変更自体はコストがかからないし、できる建物から対応すればよい。自然は常に動いていてじっとしていないのだから、都市や制度も柔軟に変化に対応していかなくてはいけない。
ほんとうのところ,どうすべきなのか,
どうすることがよりよいことなのだろうか,
そんな疑問というか,「自然災害」の報道を見聞きするたびに,思う.
数年前,真備町の水害が報じられたとき,
もともと氾濫の起こりやすい地形だったのだろう,
むかしは輪中がつくられていたとあった.
その輪中堤を壊して住宅が整備されていたとあった.
ちょっと前,広島市の北部の郊外部で土砂崩れがあった,
土質の関係などで,ちょっと危うい地域だったのだろう.
そこに住宅開発が及んでいったのだろう.
父親の田舎は,いまはどうなっているか知らないけれど,
谷戸のような土地に田んぼがあって,
実家は田んぼの近くではなく,そこからちょっと急な坂をのぼった丘の上にあった.
そこにポツンポツンと何軒かの農家があった.
たぶん古いころからの経験が,そんな立地につながっていたのではないか,と思ったことがあった.
住宅開発がすすみ,古い土地の記憶が薄れていくように思う.
古くからの生活の知恵もまた,忘れられていくだろうか.
記事の主張は,規制緩和というより,むしろ知性,技術などに応じた規制のありかたを検討すべきだということなんだろうと思った.
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〔私見卓見〕 浸水想定区域の建築規制緩和を 設計事務所経営 土居志朗
2022/8/31付日本経済新聞 朝刊
私の故郷である新潟県村上市が8月上旬の大雨で床上浸水、車の水没、停電、断水などの被害にあった。この地域は1967年(昭和42年)にも大規模水害に遭ったことがあり、洪水・土砂災害ハザードマップが整備されている。
これを見ると今回の浸水箇所は0.5~3メートルの浸水予想区域であることが分かる。さらに土砂災害や河川が氾濫したと思われる場所は、特別警戒区域や重要水防箇所と重なっていて、防災・減災には過去の経験やデータが有用なことを改めて認識させられる。
水防法で洪水浸水想定区域に指定されたほとんどの市町村がハザードマップを公表しており、建築設計を生業とする私は設計の際、参考にして1階の床レベルを設定している。しかし、現実には次のような問題がある。
建築基準法ではいくつかの高さ制限があり、敷地の地盤面や前面道路の高さを基準としているが、水害に備えて1階の床レベルを高くしようとするとその分建物が上がり、規制に引っ掛かってしまう。特に狭い敷地の場合、敷地境界線などから斜めに立ち上がる斜線制限による制約を受けやすく、1階床レベルを上げると天井を低くしたり、床面積を減らしたりせざるを得ないこともある。居住性だけでなく、賃貸物件などでは収益性も落ちて大問題になる。
そこで、洪水浸水想定区域における高さ制限を想定浸水高の分だけ緩和して高床対応を促してみてはどうだろうか。逆に3メートル以上の浸水想定区域においては地階や1階の寝室を許可しないような規制も必要かもしれない。
高さ制限は日照や景観といった都市問題から生じたもので、それと不動産的利益は相反するが、水害は命に関わる重大事である。経済を取るか命を取るかというコロナ禍に似たジレンマだが、共に生命の維持に必要である以上、両方を取らなければならない。
国土強靱(きょうじん)化を目指す今、ちょっとしたルールの緩和が大きな効果を生み出すだろう。ルール変更自体はコストがかからないし、できる建物から対応すればよい。自然は常に動いていてじっとしていないのだから、都市や制度も柔軟に変化に対応していかなくてはいけない。
2022-09-01 00:12
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