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片山善博(154) 新型コロナ分科会提出資料から読み取るべき重要な課題 【世界】2022年09月

2023年02月18日(土)

たぶん半年ばかり前に書かれたのだと思うけれど,
片山善博さんがCOVID-19について語っている.

客船の騒ぎから3年を過ぎた.
そのときすでに,「空気感染」の可能性が指摘されていた.
しかし,政府は,接触感染,咳などによる飛沫感染への警戒を呼びかけてはいたけれど,
「空気感染」というコトバは,忌避されているかのようだった.
客船の中での検疫などの模様がネットに出たとき,
これじゃ問題じゃないか,と感染症の専門家が指摘していたけれど,
逆に専門家は排除されてしまったように見えた.

ぼくは素人で,厳密に事態を見極めることはできないけれど,
いろんな議論や,類似の疾患のこれまでの事例を考えれば,
それなりの推論は可能だったように思えた.

で,いつも言っているけれど,どこにどのくらいの専門家がいるんだろう,と.
医療態勢は,どこにどう整備されてきたのだったか,と.

列島の国は,病床数が対人口比でとても多いことが指摘されていて,
医療サービスの改革でよく病床規制が言われるのだけれど,
先進国には異例なほどに精神病院の病床が多いのだと指摘されてきていた.
すでに数十年前に精神病院の閉鎖性が指摘されて以来,病棟の開放だけじゃなくて,
患者さんの社会への受け入れ促進こそが語られてきたのではなかったか…….
(また,東京の精神病院での,患者に対する暴力的な対応が問題になっているらしい)

それにしても感染症に罹患した患者を,どこで,つまりどの病院で受け入れ,誰が診療に当たるのか,つまりは感染症の専門家がどのくらいるのか,
また,感染症の拡大に対処するタメの公衆衛生の取り組みを進める態勢はどこにあるのか…….

またぞろ保健所が出てきていたけれど,
はたして保健所がそのような態勢を,
もちろん平時は別だろうけれど,きちんと用意できていただろうか.
あるいは,用意すべく相応の態勢をつくってきていただろうか,
人員,機材,知識や経験……はどうなっていただろうか.
ぼくの知る保健所の医師で,感染症や公衆衛生を専門にする人はきわめて少数だった.
それでも,行政や地域,大学や病院などとの連携をすすめることができるようなキャリアが保健所などに用意されていただろうか.
そのようにどうも見えてこない.
保健師が多忙でたいへんだと,メディアで報じられていたけれど,
報道を見ると,感染者の引き受け病院の調整などがもっぱら取りあげられていたけれど,
彼らに対する期待は,そういうことだったのだろうか.さっぱり理解できなかった.

大地震などと同じように,パンデミックもそう頻繁に発生するわけではないのだろう.
それでも人の一生のうちに2,3度は大きな災害に出会い(自分が当事者になるかどうかはあるけれど),あるいは深刻な感染症の脅威にさらされてきたように思う.
列島の国は,先進国では結核感染が顕著に多いと言われているようだし,
さいきん梅毒が蔓延していると騒がれているけれど,ぼくの知る限り,急にこのような状況にいたったというわけではなさそうだ.

そういえば,都道府県などには,衛生研究所という組織があったと記憶する.
今回,衛生研究所という名前を聞くことがまったくない.どうなっているんだろう…….

……なんだか,脱線してしまった.
COVID-19をめぐる一連の騒動?というか,そういう経験が,どんなふうに総括されて,医療サービスに生かされていくのか,感染症や公衆衛生対策にどういうふうに織りこまれていくのか,まじめに考えていく必要があるように思う.
ではあるけれど,さて…….


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【世界】2022年09月

連載154
片山善博の「日本を診る」

新型コロナ分科会提出資料から読み取るべき重要な課題


 新型コロナウイルス感染拡大第七波の真っ只中にいる。第六波までは緊急事態宣言ないしまん延防止等重点措置が発令され、外出自粛や営業停止などの行動抑制が求められた。ところが、このたびは感染が急拡大しているのに、政府は緊急事態宣言などを出さない方針を早々と表明している。
 その背景には、今流行しているウイルス変異株は重症化リスクが比較的低いという認識があり、それなら経済に支障をもたらすような行動抑制は控えた方がいいとの考えがあるからだろう。
 もとより、政府が手を拱(こまね)いているだけの現状には大きな問題がある。この先感染が収まらないで感染者の数がさらに増えた場合、重症化リスクがいくら低いと言っても、重症者の絶対数は確実に増える。それによってまたそろ医療現場が崩壊する可能性を抱えているからである。

■エアロゾル感染のリスクと換気の重要性
 ただ、ここでは政府が当面緊急事態宣言などを発令しないことの是非は、取り敢えず脇においておく。その上で、第七波を迎えるに当たって、去る七月一四日の新型コロナウイルス感染症対策分科会の動向が注目に値するので、そのことにふれておく。この日の会議に提出され、公表された資料を見ると、新型コロナウイルス対策の核心にふれる内容が含まれているように思う。
 注目する点の一つは、分科会がエアロゾル感染のリスクについて初めて真正面から取り上げていることである。ちなみに、「エアロゾル」は、空中に浮遊する粒子をいい、「エアロゾル感染」とはウイルスを含むエアロゾルを吸引することで感染することをいう。これは会議資料に記述された定義である。これに続いて、「特にクラスターが多発した高齢者施設、学校、保育所等の感染事例では、換気が不十分であったことが原因と考えられる事例が散見される」と、わかりやすく、ポイントを提示している。
 これまで政府に深く関わってきた専門家たちは、エアロゾル感染のことを真正面から取り上げることに躊躇(ちゅうちょ)していた。すでに新型コロナウイルスの主要な感染源がエアロゾル感染であることは早い段階で国際的に周知されていたにもかかわらず、である。
 それにはいくつかの理由が考えられるが、その一つは、政府及び政府系の専門家たちが当初、新型コロナウイルスは接触と飛沫により感染し、空気感染はないとしていたことと関係があるのだろう。
 そう明言していた手前、後に空気感染の一種であるエアロゾル感染が有力感染源だとは言い出しづらかったのだと思う。そこで、いわゆる「三密」という言葉遊びのような表現でお茶を濁したり、「マイクロ飛沫」などという造語を新たに持ち出したりすることで、あくまでもエアロゾル感染には無関心を装っていた。専門家たちが自分たちのメンツを保つことに腐心していた事情は本誌二〇二〇年五月りの拙稿でも取り上げているので、関心のある読者はあらためてそちらにも目を通して頂きたい。
 こんな中途半端でいい加減な状態がダラダラと続いた結果、世の中の感染防止対策はもっぱら接触感染と飛沫感染を避けることに重点が置かれてきた。それが接触感染を防ぐための手指消毒や飲食店でのテーブル消毒であり、飛沫感染を避けるためのアクリル板設置などである。
 その一方で、肝心のエアロゾル感染を防ぐための換気ないし空気の流通にはあまり関心が向けられなかった。とりわけ猛暑や厳寒の時期には、冷暖房効果を低下させる換気にはどうしても後ろ向きにならざるをえない。こうした換気の怠りが密閉した空間を生み、それが冬場と夏場の感染拡大につながっているとの推論は成り立つはずだ。
 このたび本当に遅ればせながらのことではあるが、分科会がやっと重い腰を上げてエアロゾル感染のリスクのことを正面から取り上げたことを多としたい。これを機にぜひ政府は換気の重要性についてあらためて国民及び事業者への啓発につとめ、これが徹底されるように努力してほしい。そうすることが、ひょっとしてこのたびの政府の不作為を補う有力な感染防止策になるのではないかとも期待している。

■空調による感染リスクへの認識
 分科会の資料にはもう一つ実に意味深長な内容が含まれている。高齢者施設や学校、保育所等の空調設備に関する問題提起である。そこには、「(これらの)施設等の換気・空調設備を更新する際には、高い換気能力をもつ空調設備」などへの交換を推奨する旨が記述されている。
 注意しなければ読み飛ばしそうになるくだりだが、これには重要な意味が込められている。この記述を言い換えると、高齢者施設や学校、保育所などで現在用いられている空調設備は換気機能が総じて低いことが明かされているのである。
 建物設備などの専門家によると、主流の中央集中型の空調方式では、施設内各室から空気をまとめて中央の空調機に回収し、そこで外気から取り込んだ空気と混合させ、それを冷却なり加熱なりした上で施設内各室に送風するのだという。
 各室から回収した空気と外部から取り込んだ空気の割合は一般には七対三ほどだという。送風口から出てくる冷気は新鮮だと思って吸い込んでいると、実はその冷気には館内にいる人たちが鼻や口から吐き出した空気がふんだんに含まれているということである。この方式をとる理由は、もっぱら省エネしつつ冷暖房効果を高めるためである。
 筆者は最近こんな体験をしたことがある。ある地方都市に宿泊した際、ホテルが混んでいて、希望する禁煙部屋がなかったのでやむなく喫煙可能部屋に入れられた。部屋に入ると、嫌なタバコの臭いが充満している。ちなみに、部屋の窓は開かないから空気を入れ替えることもできない。
 ところが、たまたま冷房を切ってみたところ、ほどなくしてタバコ臭は弱まり、そのうちあまり気にならなくなった。どうやらタバコ臭は空調装置から流入していたようだ。流入するのはタバコ臭だけではない。先のエアロゾルも入ってくるから、もしホテル内に新型コロナの感染者が宿泊していた場合、空調を通じて感染してしまうリスクは当然ある。だからこそ、分科会の専門家たちは「高い換気能力をもつ空調設備」への交換を推奨しているのだろう。この空調設備を通して新型コロナウイルスに感染するリスクは、二年半前のクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の船内で大勢の感染者が出た際にも一部の専門家から指摘されていた。この船の空調も中央集中型空調方式だったからである。政府はこの指摘を無視し、船内での感染拡大はもっぱらドアノブなどを通じた接触感染が原因だとする見解で押し通したが、これには大いに疑問が残っている。
 また、全国の空調設備を直ちに一斉に取り替えることは物理的にも経済的にも無理がある。ただ、現行の空調方式にリスクがあることはよく認識しておく必要がある。取り敢えずは現在の空調設備を前提にし、とりわけ猛暑や厳寒の時期に冷暖房と換気をどう塩梅するか。知恵を絞らなければならない難しい課題を分科会資料は突きつけている。


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