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NATO首脳会議 届かなかった「反戦」の声――マドリードからの報告 宮下洋一 【世界】2022年09月

2023年04月04日(火)

ちょっと前の雑誌の論説.
いつだったか,小さな宴が終わるころ,ひとりの友人がボソッと,
西欧は,スラブ人同士の内輪もめぐらいにしか見ていないんじゃないか,
そんなことをもらした.
ポーランドで仕事をしていたこともある人だから,
あるいは実感として,そんなふうに感じるところがあったのだろうか,
そう思った.

それにしても,この1年余,ずいぶんと好戦的な報道ばかりをみているように思う.
一度だけだったか,ウクライナの人で,戦争はいやだ,と他国に出国した若い人をとりあげた映像があったように記憶する.

ロシアを支持しない.
でも,じゃウクライナ=NATO同盟軍とでも言うべき軍事行動が正しいとか,まったく思わない.
数年前まで,極右と書かれた軍事組織はどうなった?

戦争にいたる経緯,背景,あるいはその指導者たちの思想……,
ていねいにたどる必要があったように思う.
あるいは戦争を回避するために,なにがなされ,なされなかったか,
深く,広く教えてほしいと思う.
いや,自分ですこしは調べろ,ってことか.

そういえば,昨日,ラオスの現在が映し出されていた.
いまだに数千万発の不発弾に蔽われた国が.
その前に,劣化ウラン弾が話題になった.もうずいぶん前にその名前を聞いた.けっしてふつうの爆弾ではない,そういう記事だったように思う.
ウクライナの土地が,将来どうなるか,知らない.


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【世界】2022年09月


ウクライナ侵攻は、ヨーロッパの安全保障に重大な変化をもたらした。西側諸国が結束するなか、現地に暮らす市民の声も一色に染まりつつあるのだろうか? スペイン・マドリードの反戦デモから、この二〇年の変化を見つめる。

NATO首脳会議 届かなかった「反戦」の声――マドリードからの報告
宮下洋一


 ロシアによるウクライナへの侵略戦争から約四カ月が過ぎた二〇二二年六月二八日、スペインの首都マドリードで、北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議が開かれた。アメリカのバイデン大統領を始め、イギリスのジョンソン首相、フランスのマクロン大統領など、各国首脳が一堂に顔を合わせ、北欧のスウェーデンとフィンランドの加盟議定書への署名、またウクライナへの軍事および経済支援を行なうことなどで合意した。NATO以外からも、「アジア太平洋パートナー国」として日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド四力国の首脳が初めて拡大会合に参加した。
 だがこの裏で、反戦運動を行なう市民たちの姿があった。スペイン国内を除き、海外ではあまり報道されなかったが、いかなる戦争にも反対する人々がいたことも事実である。日本を含め、いまやアメリカに同調する国々では、NATOが掲げる防衛・安全保障に協調する傾向が見られるが、そればかりが現実ではない。
 二〇〇三年一月から三月にかけ、世界各地でイラク戦争反対のデモが起きた。アメリカが始めた戦争に対し、市民は怒りを爆発させた。スペインでは当時、欧州最大となる総勢三〇〇万人の人々が各都市を練り歩き、「NO WAR」を叫
んだ。イラク戦争は、アメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領が仕掛けた「帝国の戦争」であった。現在のロシアとウクライナの戦争とはもちろん大きく態様が異なるが、戦争そのものに疑問を投げかける市民の数は健在だ。

■安全保障の射程に中国も
 NATO首脳会議の表向きの争点は、先述のようにスウェーデンとフィンランド二カ国の加盟問題であり、ロシアの侵略拡大阻止に向けた結束をみせることだった。だが会議では、民主主義国家の「独裁主義への対処」、同盟国の「集団防衛の強化」といった本来の目的以外にも、「日本や韓国との協調路線」など、NATO同盟国の枠や地域を超えた話し合いにまで発展した。
 今回の会合でロシアのプーチン大統領への措置が議論されるのは当然かもしれないが、中国の習近平国家主席を牽制する議論も飛び交っていた。一二年ぶりに改定された「戦略概念2022」には、「中国」の文字が一〇回現れる。同盟三〇ヵ国は、いまや中国をも安全保障の射程に入れているのである。
 スペイン主要紙エルパイス(七月三日付)に寄稿したノーベル経済学者のジョセブ・E・スティグリッツ氏は、次のように述べている。
 「中国がアメリカに対し、直接的な戦略問題を突きつけていなくとも、その動きは明確だ。ワシントンでは、中国が戦略的脅威を植え付けているとの暗黙の了解があり、アメリカがそのリスクを緩和するためには、中国の経済成長に協力しないことだとしている」
 スティグリッツ氏は、このアメリカの見方はウクライナ問題以前から生じていると考える。そして、中国の経済的脅威から身を守るためには、欧州や先進民主主義国家などの「仲間が必要だ」というアメリカの態度を批判した。
 マドリードに集まった各国首脳は、ロシアや中国への対抗措置を探るだけに留まらなかった。会合には、アメリカとの協調を再確認し、同国からの軍事やエネルギー支援を確保する目的もあったといえる。平和を訴える市民が危機感を募らせたのは、そのような背景を見越していたからだった。

■あなた方の戦争は私たちの死
 首脳会議が行なわれる二日前の六月二六日、マドリードの中心街に約三万人(マドリード市は二二〇〇人と発表)の市民が集まり、反戦とNATO首脳会議の反対を訴えた。
 このデモに加わったスペインの政党は、左派連合(IU)、共産党の二党に限られ、与党・社会労働党との連立を組む急進左派ポデモスの姿は見られなかった。その理由として、ウクライナ侵攻に反対の立場を貫くポデモスに対し、政府が国際情勢を重視するよう圧力をかけたため、との報道もある。
 最前列の横断幕には、「戦争にはノー」、「NATOにはノー」、「平和のために」の文字が掲げられたほか、「軍国主義の予算に反対、戦争に金は払わない」などの旗が揺れていた。デモに参加した元欧州連合(EU)議員で、「平和のための国家会議」のウィリー・メイヤー広報官は、「NATOは、アフリカと地中海沿岸におけるスペインの役割に対し、誤ったメッセージを発している」と非難。モロッコからスペインに流入する難民問題に対し、北大西洋の同盟が介入する姿勢に反発した。
 このデモが行なわれた日、同国のマルガリタ・ロブレス防衛相は、「明らかに少数の集まりだ」と皮肉り、「参加者の意志は尊重するが、平和とは彼らの遺産



ではなく、全員の努力によって保たれる」と言い切った。
 当初は、市内中央駅のアトーチャから、首脳らの晩餐会会場になったプラド美術館までの抗議行動が予定されていたが、このデモのさらなる拡散を警戒したマドリード自治州政府は、首脳会議期間中のデモ活動を禁止した。
 首脳会議開幕後の六月二九日、それでも反戦を訴えようと、デモ活動禁止令を破り、約一〇〇人の市民が市内中心の広場に集まった。「NATOは犯罪者、政府は共犯者」と書かれた横断幕の後ろで、約二時間、彼らは叫び声を上げた。「首脳会議は殺し屋の集まりだ」、「軍事費を学校と病院に」、「帝国主義には反対」……。中には、「あなた方の戦争は、私たちの死だ」との声もあった。欧米がロシアに制裁を科してから、エネルギー不足が深刻となり、食糧危機も表面化している。物価の上昇は止まらず、レギュラーガソリンも一リットル二ユーロ(約二八〇円)前後を推移し、スペインのインフレ率はユーロゾーンで最高値となる一〇%を記録した。
 アメリカが主導権を握るNATOが、ウクライナ支援を強化するほど、ロシアは報復措置を重ねてくる。この報復の数々は、欧州のみならず、世界各国に広がり、人々の生活に甚大な被害を及ぼしている。「私たちの死」には、その切実な思いが含まれていた。
 デモに参加した大学生のノエさん(一八歳)は、「ゼレンスキー大統領が、他国の支援を必要としたことは理解できる」と答える一方で、「彼が賢く振る舞ってきたことが、かえって今の世界の混乱につながっている」とも批判した。長年、反戦の立場を貫いているフアンさん(五五歳)は、「すべては武器ビジネスのため。そのための戦争であり同盟でもある」と指摘。プーチン大統領については、「アメリカと同じ帝国主義者だ」と叩き、「戦争をさせない教育が必要だ」と主張した。
 このデモには、地元だけでなく、フランス、ポルトガル、イタリアから来た市民の姿もあった。だが、広場から抜けるすべての道を、一〇〇人近い警察官が人間の壁をつくって塞ぎ、参加者の行動を押さえ込んだ。反戦の声は、直接、NATOの首脳たちに届くことはなかった。

■東方拡大のなかで
 イラク戦争の開戦にあたり、ブッシュ元大統領は、大量破壊兵器の存在を根拠としていた。当時はドイツやフランスを始め、ロシアもイラク戦争に反対した。スペインは、このイラク戦争に加担した。当時のアスナール首相がそれを選択した理由は、国内で分離独立を求める武装組織「バスク祖国と自由」(ETA)の撲滅にアメリカの協力が約束されていたからだといわれた。
 その時、マドリードに集まった市民は、「爆弾ではなくパンを」や「BUSH=SADAM」などのプラカードを掲げ、帝国の戦争に反対した。後に首相となる社会労働党のサパテロ書記長も、平和を願う市民の活動を賞賛し、アメリカの戦争に反対した。しかし、そのスペイン(NATOには一九八二年加盟)は現在、ウクライナへの軍事支援と武器提供を行なっている。二〇一二年の段階で一・〇一%だった防衛費を、二〇二九年までにはNATOの共通目標とされる二%へと引き上げる目標を掲げている。NATOによると、すでに二%に到達している国は、三・七六%のギリシャを筆頭にアメリカやイギリスなどの九力国で、スペインはルクセンブルクとアイスランドに次いで低い数値を維持してきた。
 スペインのシンクタンク「エルカノ王立研究所」が六月二三日に行なった調査によると、同国では「NATOの加盟維持に賛成」が八三%であるのに対し、「脱退すべき」が一七%だったという。また、ウクライナ戦争の原因については、「ロシアがウクライナを不当に侵略したため」が八五%だった一方、「NATOが加盟地域拡大でロシアに接近したため」が一五%だった。
 ウクライナに対する侵略戦争の容認は、民主主義の敗北につながるという西側諸国の価値観から、欧州市民は断固としてロシアを許さない。そればかりか、NATOは、ロシアの社会体制から遠ざかる東欧諸国を次々と吸収していく。
 この西側同盟の戦略は拡大を続け、日本や韓国を味方につけながら、中国を封じ込めようとする勢いも見せ始めている。

■「欧州共通の価値観」
 イラク戦争に反対してきた米シカゴ大学政治学部のジョン・ミアシャイマー教授は、仏週刊誌「レクスプレス」(七月七日号)に対し、欧州はロシアとの対話による解決策を試みたが、アメリカには話し合いの選択肢がないと語る。結果として、武力行使しか残されず、最悪のシナリオになると想定した。
 「アメリカと西欧、とくに東欧がウクライナのロシア人を制圧すれば、プーチン大統領は核兵器を使って状況を取り戻すことになるだろう」
 帝国の戦争は、終わらない。振り返れば、二〇年前、「戦争はノー」、「戦争はテロリズム」、「石油の戦争に反対」などと訴えてきた人々の願いは、戦争の拒否であり、世界の平和にほかならなかった。
 だが、今は違う。状況によっては、戦争も正義になることを、西側先進国は力をもって証明しようとしている。EUの世論調査「ユーロバロメーター」が六月に行なった調査では、EU市民の五九%が次のような考えに賛同している。「たとえ金と命が犠牲になっても、自由や民主主義という欧州共通の価値観を守らなくてはならない」
 武力行使はなくならない。そして戦争も、このような価値観がある限り、延々と繰り返されていくのである。
(みやした・よういち 在欧ジャーナリスト)

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