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片山善博の「日本を診る」(160) 「大砲もバターも借金で」では次世代に顔向けができない

2023年08月19日(土)

そういえば ケインズは 不況時の公共事業を肯定的に あるいは積極的に論じた……
とされるのだけれど
あるいは 一般理論 とはいうけれど 普遍的とか 
どこでも通用するような議論として提示していただろうか と思い出す

それで 究極の公共事業?として 戦争とか そのための武器とかを考える人がいる
というのは ちょっとゆきすぎなんだろうか

そういえば 一般理論のドイツが盤への序文だったか
ちょっと気になるような記述があったようにも思うが
どうだったろうか
あとで探してみよう


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【世界】2023年03月

片山善博の「日本を診る」(160)

「大砲もバターも借金で」では次世代に顔向けができない


 昨年、岸田内閣は防衛費を大幅に増額する方針を決めた。これまでわが国の防衛費は対GDP比一%以内を目安にしてきたが、これを二%にまで増やすというから、防衛費予算はほぼ倍増である。
 続いて、「従来とは次元の異なる少子化対策」に乗り出す方針を表明した。子ども・子育て政策は、「最も有効な未来への投資」だとの認識のもとに、少子化対策を含む子ども子育て政策の予算を倍増するという。
 経済学や公共政策の教科書には、「大砲かバターか」という言葉がよく登場する。大砲は軍事・防衛費を、バターは民生費をそれぞれ意味している。このたび、岸田内閣が力を入れることにした防衛費はまさしく大砲であり、子ども子育て予算は代表的な民生費だからバターだといえる。
 「大砲かバターか」は、そのいずれを優先するのかという文脈の中でしばしば用いられる。また、その両方を同時に十分満たすことの難しさを含意している。いずれに重点を置くか、その選択をしなければならないことが暗黙の前提とされている。
 ところが、岸田内閣は防衛費も子ども子育て予算も倍増するというのだから、大砲とバターの両方とも優先するつもりなのだろう。好意的に解釈すれば意欲的だといえようが、暗黙の前提に照らせば欲張りすぎているといえる。
 防衛費も子ども子育て予算も倍増する方針だけは先行しているが、実を言えばそのために確保しなければならない財源にはほとんどといっていいほど目途が立っていない。

■防衛財源のほとんどが赤字国債で賄われる可能性も

 まず、防衛費である。防衛費の増額に要する財源は仕上がり年度ではおよそ四兆円だとし、そのうち一兆円ほどは増税で調達し、残りは歳出改革や「防衛力強化資金」などで確保するとし、一応の目鼻が整っている風を呈している。
 たしかに自民党税制調査会は税制改正大綱の中で、増税の対象税目は法人税、所得税及びたばこ税だと決めている。ところが、例えば法人税率をどうするのかは曖昧なまま。なにより、これらの増税をいつから実施するのか、その時期さえ決められていない。それらは六月の骨太方針までに決めるのだという。現時点では、一兆円規模の増税は構想の段階にとどまっている。
 しかも、自民党内にはそもそも増税方針に納得していない議員が多いらしい。すでに、増税以外の財源確保を検討する特命委員会が党内に設けられ、増税に反対する議員を中心に議論が展開されている。
 これまで、自民党党税調の税制改正大綱に示された内容は決定的であり、党所属議員には異論や反論を許さず、彼らを拘束した。ところが、昨今の党税調にはそれだけの神通力はなくなったようだ。特命委員会の検討状況や党内の政治事情によっては、先の一兆円は幻に終わりかねない。
 今のところ増税で調達することにしている一兆円を除く残りの三兆円は、歳出改革によって生み出される財源、新たに設ける「防衛力強化資金」、それに一般会計の歳出剰余金の三つの財源で賄うとしている。
 まず、歳出改革によって生み出される財源は、安定的な財源だといえる。ただ、これまで歳出改革、既存経費の削減というお題目を唱えて財源確保に取り組んだ例は何度もあったものの、それで生み出された財源は期待からほど遠かった。このたびは件の特命委員会がことのほか力を入れているようだが、果たしてどれほどの成果が得られるか。
 漏れ伝えられるところによると、既存の歳出項目のうち国債費を削減する案が有力な案になっているようだ。これは国債のいわゆる六〇年償還ルールに従って毎年度償還している額を減らし、それによって浮いた額を防衛費の財源に回す考えなのだろう。
 たしかに国債費の減額は形式的には既存歳出の削減に当たるのかもしれないが、結果として国債残高を増やすだけのことである。これを恒久財源というわけには到底いかないし、そもそも財源に位置づけることすらまやかしに近い。こんな辻褄合わせは子供騙し以外の何物でもない。

■次世代への安易なつけ回しは許されない

 「防衛力強化資金」とは、国有財産の売却益などの税外収入をこれに繰り入れ、それを防衛費の財源にするという考えのようだ。しかし、国有財産の売却益などの税外収入はこれまでも生じていて、それらは通常は一般会計の中で貴重な財源として活用されてきている。これを防衛費の財源に優先的に充てることになれば、その分だけ他の経費に充てる財源が減るので、それは玉突き的に赤字国債の増発につながることになる。「防衛力強化資金」などともっともらしい名称を付しても、所詮は赤字国債の増発を目立たなくする姑息な仕掛けにすぎない。
 一般会計の歳出剰余金は各年度生じていて、それは次年度以降の一般財源になる。これを防衛財源に先取りすることになれば、その分だけ次年度以降の一般財源が減ることになるから、ここでも玉突き的赤字国債の増発につながるだけである。
 一般会計の歳出剰余金で気になることが一つある。このところの予算には数兆円単位の巨額の予備費が計上されている。この予備費に目をつけ、新型コロナ対策が終了してからも、必要見込み額を大きく上回る数兆円規模の予備費を計上しておき、それを予定どおり不用額にすることによって、防衛費増額に必要な財源のうちのかなりの部分を、歳出剰余金で賄うことができる。しかし、もとより予備費積み増しの財源は赤字国債であって、その不用額も赤字国債由来であることを忘れてはならない。
 以上のように、防衛費増に充てるための増税によらない財源だとされているもののほとんどは、実質的に国債増発と変わらない。唯一ちゃんとした財源といえるのは、国債費減額などでない本当の意味の歳出削減によって生み出される財源だが、それはごくわずかしかないことが予想される。さらに、特命委員会の奮闘により、増税自体が骨抜きにされたり、増税幅が縮小したりするなら、もはや防衛費増のほとんどを次の世代につけ回しすることになる。
 子ども子育て予算倍増に必要な財源については、今のところまったく白紙である。行政サービスの充実を、財源を示さないまま国民に提示するのは不見識だと思う。負担が伴うことで、その行政サービスの真の価値は評価されるからだ。
 与党の一部から、消費税引き上げを示唆するような発言も出たが、直ちに否定され、口封じされたようだ。統一地方選挙を控え、予算倍増という国民が喜ぶことだけを伝え、財源などという余計なことは言うなということか。選挙が終わってから増税を決めるやり方は、国民に対して実に不誠実であるし、反対に増税や歳出削減をしないまま予算だけ倍増するのは次世代に対して不誠実である。
 「大砲かバターか」は、税を中心とした限りある財源を何に優先して使用するかという真剣な選択である。ところが、財源のことなどお構いなしに「大砲もバターも」手に入れ、そのツケは次世代に回す。こんな無責任な政治が許されていいはずがない。

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