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〔私見卓見〕 アルコール依存症からの脱出法 会社員 松本雄三

2023年07月07日(金)

ようやく就職して,しばらくして高校時代の同級生が別の部署にいることを知った.
これもちょっともおもしろかったのだけれど,ある部署に、彼もふくめて3人,
そう,ひとりは高校の同級生,ひとりはちょっと年上の大学のゼミの先輩,もうひとり,高校の先輩で,かつ大学の先輩,ゼミなどの関係はなかったけれど,偶然ではあったけれど,
その彼と,会うことがあった.そのころ,まったく知らなかったのだけれど,彼はお酒を切らせることができなくなっていたらしい.
なぜお酒を縁を切ることができなくなっていたのか,知らなかった.
それでも,なんとかアルコールと縁を切る努力をはじめた.なにかきっかけがあったかもしれない.

人のことは言えない,お酒とは縁を持つまい,と思っていた.父親は酒乱の気配があった.若いころ,いろいろお酒で問題を起こしたことがあったようだ.
その父親を鏡として,酒は駄目,と思っていた.
でも,高校に通い始めて,たぶん2年生になってからか,お酒を飲むようになった.
その前にタバコも覚えた.さいしょ安くて軽いタバコを吸い始めた.そのうち,安くてちょっと強いタバコを吸うようになった.周りにも喫煙者が多かった.学校の校庭で片隅に,いつもタバコの吸い殻がたくさん落ちていて,気の優しい体育の教師がほうきを持って片付けていた.
お酒に溺れそうになったことがあった……そんな時期があった。
仕事にありついてからも,お酒で大失敗しそうになったことがあった、と記憶する.
首になってしまいそうな,そんな危ない道を歩きそうになって,
それで,すこし自制するようになっていった.
そんなころ,彼のアルコール依存について,ちょっと考えていた.
知り合いの管理職のもとに異動したので,その人に面倒を見てくれるようにたのんだ.
そのころから断酒会に通うようになった.いや,断酒会に通う,ということで,地理的にその職場を選んだのかもしれない.上司は、それなりに配慮してくれいるみたいだった.
そして,なんとかお酒を断つところまでったようだった.
職場を変わっても,お酒を断っていた.そして,断酒会のお手伝いをしている,と聞いた.
しかし,たぶんお酒の影響は彼のカラダに深く刻み込まれていたのだろうと思う.

元気にしているものとばかり思っていたら,訃報が届いた.
通夜に行って,はじめて彼が老いた母親とふたりで生活していたことを知った.
高校のころからそうだったのか,知らない.個人の事情に深入りしない……ということでもなかったけれど,彼から、自身のことを聞くことはあまりなかったように記憶する.
校内雑誌の編集部にいて,ちょっと理屈っぽい印象はあったが,
彼よりもアルコールと親しい奴はもっとほかにいたし,理屈っぽさじゃ負けないような多くがいると思っていた.

その後,老いた母親がどうしたか,知らない.
通夜の後,しばらくして届いた挨拶状だけが残っている.


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〔私見卓見〕 アルコール依存症からの脱出法 会社員 松本雄三
2023/1/27付日本経済新聞 朝刊

私はアルコール依存症者であり、酒をやめて20年近くになる。きっかけは自助会への参加だ。

自助会とはアルコール依存症者が酒をやめるために集まる会。参加することで自分がアルコール依存症者であることを認め、同じ病気で苦しむ人を助けることができる。独りで酒を断つのは厳しい。同じような経験を持つ人同士で一緒に酒をやめた方が長く続く。

自助会に参加して気付くことがある。多くが多量の飲酒を長年続け、精神科病院への入退院を繰り返している。それを本稿では「重度」のアルコール依存症者と定義する。重度になって初めて、独りでは酒をやめられないことを理解する。そして自助会を訪れる。自助会の存在自体すら知らず、参加がさらに遅れるケースもある。

多量の飲酒は体に悪く、悪影響は酒をやめた後も長年続く。糖尿病、脳の萎縮、がんなど。だからできるだけ初期の段階で参加してほしい。私の場合は妻が飲酒問題に気づき、医者にいくように促してくれた。1年ほど通い、アルコール依存症と診断された。その後の治療を尋ねると「自助会に通って酒をやめ続けてください」と言われた。妻からは「酒をやめないと離婚する」とされていたので、通った。「酒が飲めない」つらさはあったが、初期の段階だったからか、入院をせずに済んだ。

自助会では飲酒にまつわる経験や現在の自分の状態を話す。参加者同士、黙って話を聞く。最近はオンライン参加もある。自分の顔を画面から隠し、参加者の経験を聞くだけでもいい。

一方、自助会に通って酒をやめることができる科学的根拠はない。それも自助会が浸透しない原因の一つだろう。しかし同じ問題を抱える人の中にいて分かち合っていると、不思議と酒をやめることができるのも確かだ。酒をやめられることだけではない。人生の苦しみを共有できたり、希望を見いだせたり、ときには生きる力を得ることもできる。

アルコール依存症は否認の病気ともいわれる。本人の意思もあるから難しいかもしれないが、医師や行政、飲酒問題に携わる方々はぜひ、自助会への早期参加を促してほしい。酒をやめ続けられる原動力を実感できると信じて。 
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