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文理融合 気づき増やす 学びたい学生の意欲刺激 文化人類学者 上田紀行氏

2023年02月15日(水)


もうずいぶん前、文と理の融合を謳った新書が出されていた……ような記憶がある。
新書だったか、まぁそういう体裁の本だったか。
ひょっとすると、記憶違いかもしれないけれど、
文理融合をことさらに謳わなくても、というのは、そのころにも議論されていたはずだと思う。
interdiscipline,いや,transdiscipline……とか,そんなことばが詮索されたこともあったな,と思い出す.

ちょうど「歴史総合」とかいう高校の教科がはじめられたらしいけれど、
戦後に、それまでの東洋史、西洋史、日本史の垣根を取り払った,全体を総合するような歴史が,当時の少壮の,名前をみるとその後の大家によって,提案されていたはずだ。
歴史は繰り返される……とか。

人類学は、文系でも理系でもあったはずだ。
あるいは、文系、理系と分けることにどれほどの意味があったか、ともいえるか。

そういえば経済学者ケインズは、大学では数学などを勉強していたはずだ。
確率論なる本も書いている。で、彼は理系の人なのか?文系の人なのか?

それでもいつごろからだったか、大学学部の専門課程が、教養課程を侵食するような取り組みがなされてきたのではないのか?
文系、理系というけれど、心理学を専攻する人に、人間の身体にかんする知識は不要だろうか?
経済を専攻する学生に、統計や、初歩的かもしれないけれど解析や代数の知識は不要だったか?
いや、僕はそういう意味では文系だったから、あまりできのよくない文系学生だったから、たいしたことは言えないのだけれど。
反対に、倫理にかんする知識を欠いた医学生とか、家族のあり方などへの想像力を欠く、あるいは企業組織のあり方にかんする経営的な観点を欠いた建築家とか、
ちょっとおかしくないだろうか。

それで、東工大なんだけれど、振り返れば、戦後、この大学から……ちょっとぼくの偏った読書体験かもしれないけれど……奥野健男さんとか,吉本隆明さんがでている。

なかには,医師にして歌人とか、
いや、古くは理系の文人は少なくない。

で、なぜ、いまさらこのような議論になるのか、よくわからない……と思った。
というか、そうであるならば、おそらく高校のカリキュラム、大学への進み方に、もっといろいろな工夫があり得るように思った。

……………

そういえば,森嶋通夫さんの大学改革論?があった.
大学で,教養課程を,専門を終えてから進む過程にしたらどうか,いやだったら専門を住ませたら卒業可能にしたらどうか……,
そんなことを書かれていたように記憶する.
ふーん,そうかな,とは思ったが,
高校での,あるいは高専での課程も考え合わせて,どうするか,
そう考えると,どうなるだろうか.






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文理融合 気づき増やす 学びたい学生の意欲刺激
文化人類学者 上田紀行氏
2022/8/31付日本経済新聞 朝刊

大学で文系、理系の枠を越えて教える「文理融合」の取り組みが一段と進んでいる。学生たちが時代の変化や技術の進歩が著しい現代社会と向き合い、生きぬく力を鍛える狙いがある。文理融合の学びを深めるうえで大事な視点は何か。文化人類学者の上田紀行さんに聞いた。

――改めて文理融合が注目される背景は。

「現代社会が目まぐるしく変化していることが大きいでしょう。世界は新型コロナウイルスの感染拡大、ロシアによるウクライナ侵攻と核戦争の危機に直面しました。人工知能(AI)に象徴される科学技術の進歩も著しい」

「こうした変化が私たちの暮らしや働き方を変える可能性があり、人々は不安を感じている。未来を予測しにくい時代を生きるための力を鍛えていく必要があるのです。中高生にも大事な学びの視点です」

――文理融合を実践する大事な視点とは。

「国立大、私立大の個性もあるので一概には言えませんが、文理の違いに関係なく、学生の意欲を刺激することではないでしょうか。学生の心には、純粋に知りたい、学びたいという意欲があります。この意欲を刺激し、自由な発想を育み、新たな気づきを増やしていくことが大事です」

「その方法の一つは、学生どうしの対話、教員との対話が大事です。教員も一緒に考え、学んでいきます。時間も手間もかかる方法ですが、大教室の授業だけでは限界があるでしょう」

――大学教育を見直す必要がありますか。

「(副学長を務める)東京工業大学には『文理共創』という言葉があります。文理の枠を越えて学ぶだけでなく、現代社会の課題を理解し、その答えとなるような選択肢を考えぬき、決断する力を養っていきます。一歩進んで、科学技術で社会を変える責任を自覚してほしいという問題提起をしています」

「最近の学生は成績や評価を気にする傾向があります。『こんな質問をしたら笑われるのではないか』という気持ちになるのでしょう。この意識のまま大学生活を送っていると、組織や社会の空気を読むことを気にするようになり、社会を変えるような若者は育たないと危惧しています」

――東工大で実践したことは何ですか。

「2016年にリベラルアーツ研究教育院を新設し、大学全体で教養教育のあり方を考え、実践しています。社会的発信力も教育力もある刺激的な教員に集まってもらいました。『なぜ学ぶのか』と問い、学生のパッション(情熱)と志を刺激しています。志とは『社会をこんな風に変えたい。こんな人間になりたい』という内側からわきあがる意欲のことです」

「約1100人の新入生は入学直後、国際情勢、社会問題をテーマに専門家の講演を複数回聞きます。その都度、約30人のクラスに分かれ、数人で意見や感想を出し合います。現代社会が抱える課題への理解を深めるきっかけにします」

「3年生になると、新入生のときに同じグループだった学生が再会し、研究や現代社会への考察を5000字から1万字の『教養卒論』としてまとめます。互いに評価しながら執筆します。議論や執筆には修士課程の学生も加わります」

――今後の文理融合の可能性は。

「東工大では学生の問題意識が深まり、書く力、話す力も少しずつ育まれてきた手応えがあります。中には専門分野だけに没頭したいという学生もいたでしょう。一方でもっと文系科目を学びたいという学生の要望もある。これにどう応えるか検討しています」

「可能性を探る上で、どのように学生を育てるのか、大学の役割とは何かという原点に帰ることが大事だと思います。学生は社会や技術の変化に直面したときに、その変化を乗り越える力、立て直す力が求められているのです。文理の枠を越え、学びを深めるための環境づくりに終わりはないのでしょう」

うえだ・のりゆき 東京工業大学副学長(文理共創戦略担当)・リベラルアーツ研究教育院教授。博士(医学)。リベラルアーツ研究教育院の初代院長。編著『新・大学でなにを学ぶか』、共著『とがったリーダーを育てる』など。


学問の融合実現 教育改革必要に 専門性とのバランスも
2022/8/31付日本経済新聞 朝刊

東京工業大学は2016年、大きな教育改革をした。リベラルアーツ研究教育院を新設し、学部と大学院をつないで学院をつくり、4学期制を導入した。

その背景には理工系大学として世界と渡り合って生き残るための危機感があった。そのカギとなるのが志ある若者を育てようという問題意識である。まさに文理融合(文理共創)は教育改革の軸の一つといえる。

浮上した東京医科歯科大学との統合計画が実現すれば、両校の学生に新たな学びや交流の機会をつくり、文理融合の学びの幅を広げる可能性もある。

研究対象が様々な領域にまたがる学際的な教育は時代の様相が複雑になればなるほど必要性が高まる公算が大きく、旧来の体制を含む教育自体のあり方も問う。専門性とバランスを取りながら、具体的にどのような知の学び舎をつくるのか。学問の融合を文字通り実現するには、大学改革に向けた覚悟も必要となる。

(編集委員 倉品武文)

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