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〈汚染水〉問題について考える ――小出裕章氏に聞く(聞き手=佐藤嘉幸)

2024年03月13日(水)

13年目の3・11とか,テレビの画面に,あの時のシーンが繰り返される.
その後に発生したフクシマもまた,同様.

反原発?
原発推進?
で,何に反対し,何を推進しているんだろうか,と思うことがある.


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【読書人】2023-10-13FRI

小出裕章氏に聞く(聞き手=佐藤嘉幸)
〈汚染水〉問題について考える
管理できている放射能汚染水を意図的に海に流すことは犯罪である


 東京電力福島第一原発事故で生じた汚染水を〈浄化〉したとされる水の海洋放出が八月から始まった(第一回は九月一一日まで)。その第二回目が一〇月五日から実施されている。果たして、〈汚染水〉放出には本当に問題はないのか。また、危険性は一切ないのか。元京都大学原子炉実験所助教で原子力廃絶の研究をつづけている小出裕章氏にお話をうかがった。聞き手は筑波大学准教授の佐藤嘉幸氏にお願いした。(編集部)


科学ではありえない事態

佐藤 東京電力は、八月二四日に福島第一原発から、いままでタンクに貯蔵していた「ALPS処理水」の海洋投棄を開始しました。しかし、「ALPS処理水」は実際には、いまだ放射性物質が基準値を超えて残存する汚染水です。トリチウム以外は基準値以下まで処理するという東京雷力の方針が示されているとは言え、汚染水を海洋投棄するという行為について、どのように考えられるでしょうか。
小出 まず確認したいのですが、国と東京電力は今、福島原発に溜まっている一三○万トンを超える水を「ALPS処理水」と「処理途上水」の二つに分けています。このうち「処理途上水」は全体の約七割を占めており、文字通りまだ処理が終わっていない、れっきとした「放射能汚染水」です。残り三割を占める「ALPS処理水」は東京電力が「ALPS(改良型水処理システム)」と名付けた装置で処理し、トリチウムという放射性物質以外の放射性物質は国の基準値以下に取り除いたと言っている水です。しかし、トリチウムは別名「三重水素」と呼ばれる通り、水素の同位体で、水の構成要素になっています。そのため、どんなに水処理技術を駆使して水をきれいにしても、トリチウムは水そのものになっているため、決して取り除けないのです。現時点で溜まっている一三〇万トンの水の中には、そのトリチウムが国の基準の平均で一○倍含まれており、「ALPS処理水」はれっきとした「放射能汚染水」です。
 それを日本ではマスコミが率先して「処理水」と呼んできました。本来なら国がマスコミの暴走をいさめるべきでしたが、国はむしろマスコミの暴走を許してきました。そのうえ、「汚染水」と正しく呼んだ野村農林水産大臣をマスコミと国、それに野党も加わってバッシングし、謝罪させるという、およそ科学ではありえない事態になっています。
 人間には放射能を消す力がありません。自然にもありません。自分に力がないからと言って、放射能の始末を自然にゆだねることははじめから間違えています。放射性物質はそれぞれ固有の寿命を持っており、時間がたてば減っていきます。そのため、できる限り閉じ込めるというのが人間にできる最善の策です。トリチウムの半減期は一二・三年です。半減期の一〇倍閉じ込めておけるなら、放射能の量は一〇〇○分の一に減ります。今、福島原発に溜まっている「放射能汚染水」を海に捨てなくても済む現実的な方策は山ほどあります。
佐藤 東京電力は二〇一八年まで、「汚染水はALPSで処理すればトリチウム以外は基準値以下にできる」と明言していました。しかし、二〇一八年当時、「処理水」の八割以上で、墓準値を上回るトリチウム以外の放射性物質が検出されており、それを東京電力は意図的に隠していました。住民側の指摘でこの事実が発覚したわけで(hops://digitai.asahi.com/articies/ASL9X6HQ3L9 XULBJ014.html)、今後も情報公開の正当性に信頼がおける状況とは言えないと思います。今後海洋投棄される放射性物質の総量も不確定なままです。
小出 国や東京電力が自分に都合の悪い情報を隠すということは、昔からのことで、むしろ彼らの本質的な習性です。福島原発事故では、熔け落ちた二五〇トンの炉心の中に、代表的な核分裂生成物であるセシウム137を尺度にして測ると、広島原爆七九〇〇発分に相当する核分裂生成物が含まれていました。その一部が汚染水の中に溶けだしてきているのですが、事故など起きないと高をくくっていた国や東京電力からすると、猛烈な汚染水になっています。その汚染水を国の基準値を下回るまできれいにするという作業は容易なことでなく、一二年半たった今でも、すでに述べたように、二二〇万トン溜まっている水のうち七割には、取り切れない放射性物質がいまだに大量に汚染水の中に残っています。東京電力は、今後、「処理途上水」を再度ALPSで処理し、トリチウム以外の放射性物質は国の基準値以下になるまできれいにすると言っています。しかし、それが本当にできるかどうかも定かでありません。
 国と東電は、「ALPS処理水」という名の放射能汚染水を海に流す場合、トリチウムが法令の墓準値(一リットル当たり六万ベクレル)の四〇分の一の一リットル当たり一五〇〇ベクレルになるよう、海水で希釈すると言っています。そのことで、彼らはさも安全であるかのように装っています。でも、彼らがそうせざるを得なくなったのは、トリチウム以外のストロンチウム90、ヨウ素129、ルテニウム106などの放射性物質が、法令の基準値ぎりぎりまで含まれていて、その上にトリチウムを上乗せすればすぐに基準値を超えてしまうからなのです。今、福島原発の放射能汚染水は、あたかもトリチウムだけが問題であるかのように情報が操作されていますが、放射能汚染水に含まれている放射能はトリチウムだけではないことに注意し、それらのデータもきちんと公表させることが必要です。
佐藤 汚染水を漁業者のような「関係者の同意なしに処分しない」という政府の方針は、一体どうなったのでしょうか。漁業者が同意していない中での汚染水海洋投棄の決定は、民主的決定とは言えないのではないでしょうか。福島第一原発からは、過酷事故によって、これまでも大量の放射性物質が環境中に放出されてきましたし、いまも漏出が続いています(https://cnic.jp/47439)。それに加えて意図的に放射性物質を放出することは、倫理的に許される行為なのでしょうか。
小出 国や東京電力が自分に都合の悪い情報は極力外に出さないということは、彼らの習性ですが、それだけではなく、時に彼らは積極的に嘘もつきます。汚染水の海洋放出については、かつて石原伸晃さんが言ったように、「結局、カネ目でしょう」という程度にしか彼らは考えていませんでした。しかし、漁民が最後まで抵抗を続けたため、約束を反故にしました。
 先にお答えしたように、放射能は環境に捨ててはいけません。残念ながらフクシマ事故は起き、為す術なく大量の放射性物質を環境に放出してしまいました。でも、今福島原発に溜まっている放射能汚染水は管理できているものです。その管理を続けることも現実的で容易な方策がたくさんあります。それなのに、約束を破ったうえ、意図的に海に放出することは犯罪です。


補足できないままの放射性物質

佐藤 私には「ALPS処理水」という名称そのものが、露骨なイデオロギー的操作に見えます。「アルプスの水」のような清浄な水の印象を与えますが、実際には炉心溶融した放射性物質に地下水が流入した汚染水をフィルター処理しただけです。「ALPS(advanced liquid processing system、直訳すれば「高度液体処理システム」)という言葉自体、東電の和訳「多核種除去設備」(英語に反訳すれば、Multi-nuclide removal system)とはかけ離れています。浄化された水のように思わせる印象操作でしかありません。
小出 ご指摘の通りです。水処理とは、水の中に含まれている汚染物質を捕捉して取り除く技術です。しかし、先に述べたように、福島原発に溜まっている放射能汚染水は、猛烈な濃度であるため、大変な被曝源になっています。それが敷地の中にあるため、敷地境界を越えて、国の基準値を超えた放射線が飛び出していました。なんとか汚染水の中から放射性物質を捕捉し、取り除こうとALPSも作られましたが、国や東電の思惑通りには稼働せず、ようやく敷地境界での被ばく線量を国の基準値に納めることができたとは言うものの、いまだに汚染水の中に大量の放射性物質が捕捉できないまま残されています。
佐藤 小出さんが福島第一原発事故直後から指摘されていたように、地下水の流入を止めなければ、今後も汚染水は増え続けるだけだと思います。政府と東京電力の仮定では、現在タンクに溜まっている汚染水を放出するだけで三〇年以上かかるということですが、地下水が流入し続ければ、汚染水の海洋投棄は
終わりなく続くことになるのではないでしょうか。
小出 原発の原子炉建屋は、大量の放射性物質を取り扱うもので、もともと「放射線管理区域」です。そこに外部から地下水が流れ込んでくるなどということははじめから論外です。でも、二〇一一年三月一一日の東北地方太平洋沖地震によって福島原発の原子炉建屋地下は破壊され、大量の地下水が流れ込んでくることになってしまいました。原子炉建屋の中には、熔け落ちた炉心が存在しており、地下水がそれと接触すれば汚染水になってしまうことは当然です。そのため私は、事故直後の二〇一一年五月から、地下に遮水壁を作り、地下水の流入を止めなければならないと発言してきました。しかし、六月に株主総会を控えていた東電は、私が主張したような鋼鉄とコンクリートの遮水壁を作ろうとすると一〇〇〇億円の資金がかかり、株主総会を乗り越えられないとして、その案を採用しませんでした。そして国と東電は、二〇一三年になってから、凍土壁なる遮水壁を作ると言い出しました。原子炉建屋周辺に深さ三〇メートル、延長一・五キロメートルにわたって、土を凍らせて壁を作るという計画でした。私は、地下水の流れは複雑で、一か所を凍らせれば別の場所に流れていくので、全体を凍らせることなどできないと発言しました。そのうえ、四六時中凍らせておくためには膨大な電力が必要だし、地下に打ち込んだパイプが破損したり、詰まったりすれば壁が維持できなくなります。過去に経験のない壁だったため、国は、その壁の建設は実験だとして、国費で建設することにしました。国費とは私たちの税金のことです。もしその壁ができているなら、もう汚染水問題は解決しているはずですが、原子炉建屋への地下水の流入はいまだに止まりません。私は、今からでも地下にきちんとした遮水壁を作るべきだと言っていますし、それができなければ、今後も地下水の流入は止まらないでしょう。熔け落ちた炉心は、炉心を格納していた原子炉圧力容器を熔かし、周辺のコンクリートも熔かし、それらと混然一体となったデブリと呼ばれる塊になっています。原子炉建屋の中にあるそのデブリをつかみ出せれば、汚染水の増加は防げますが、デブリの取り出しなど、夢のまた夢です。〈2面につづく〉


関係者総無責任体制

〈1面よりつづく〉
小出 国と東電が強行を始めた汚染水の海への放出は、彼らの計画が仮に完壁に思惑通り進むとしても、すべての放流を終えるまでには今後四〇年かかります。もちろん私は死んでいますし、フクシマ事故に貴任のある国、東電の関係者も死んでいるでしょう。フクシマ事故被害者の多くも死んでしまっています。それほど大変な作業なのです。そのうえ実際には、今後ALPSが期待通り稼働することもないでしょうし、地下水の流入を止められなければ、汚染水は長期に亘って増えていくことになります。
佐藤 東電は、本格的な遮水壁の建設をコストがかかりすぎるとして真剣に検討せず、国費を使った凍土壁という中途半端な方法を選んだわけですね。そのため地下水の流入は止まらず、汚染水はいまだに増え続けています(コストを気にして本質的対策を怠るという東電の体質は、一五・七メートルの津波可能性を事前に試算しながら何の対策も行わず過酷事故を迎えた、福島第一原発事故前の態度と全く変わっていません)。そこで国と東京電力は、廃炉を行うためには汚染水の海洋投棄が不可欠だと言い出しました。しかし、廃炉とは何を意味するのでしょうか。現在までのデブリの取り出し状況を見ても、あの土地を完全に更地にすることはできないのではないでしょうか。
小出 国の事故処理に関する工程表、いわゆる「ロードマップ」によれば、デブリを取り出し、それを安全な容器に封入し、福島県外に持ち出すことを事故の収束と呼んでいます。しかし、そんなことをしたところで、デブリ自体が消えるわけではなく、仮にデブリを取り出せたとしても、今度はそれを一〇万年から一〇〇万年も管理しなければいけません。汚れきった原子炉建屋、放射能汚染水から捕捉した膨大な放射性物質も残ります。
 従来の廃炉という概念は、原子炉の中にあった使用済み燃料を取り出し再処理工場に移動させ、原子炉そのものは解体撤去し、敷地を更地に戻すことを廃炉と呼んでいました。それができた原発は日本にはありませんし、福島原発の場合はどのようなことができるか全く見通しすら立てることができません。もちろん敷地を更地に戻すまでには数百年、あるいはもっと長い年月が必要です。

海洋投棄以外の選択肢は

佐藤 東京電力と国は、汚染水の海洋投棄以外の選択肢を真剣に検討したと言えるのでしょうか。コスト的に海洋投棄が優位ということでこの方法が選ばれたようですが、実際には、海洋投棄のコストは一七-三四億円とされていたにもかかわらず、現在では一二〇〇億円とされています。処理期間も四年から七年とされていたのに、現在では三〇年以上とされています(https://www.greenpeace.org/japon/campaigns/story/2023/08/24/61694/)。現実的にはコストよりも、環境破壊を防ぐ方が重要なのではないでしょうか。コスト=ベネフィットで考えると、結局は環境汚染を許容する方向に流れるのではないでしょうか。
小出 国にとっては、汚染水はそのまま海に放出する以外の選択肢ははじめからありません。簡単な方法としては、先に述べた地下の遮水壁を作れれば、汚染水の増加は防げますし、なにがしかの増加があるというのであれば、タンクの増設をすれば済みます。国と東電は、もう敷地に余裕がないと言っていますが、福島第一原発の敷地に限っても、七、八号機の建設を予定していた広大な土地が余っています。国と東電は、そこを今後の廃炉作業で使うからそこは利用できないと言っています。しかし、廃炉の工程表すらが現実的なものになっておらず、今の段階でそのような配慮をすることは誤りです。百歩譲って福島第一原発の敷地内に用地が確保できないというのであれば、福島第二原子力発電所の敷地が手つかずに残っています。さらに言うなら、福島第一原発周辺には、国が除染残土の置き場として確保した中間貯蔵施設の土地が広大にあります。使用目的が違うなどというのであれば、特措法を変えればいいだけのことであって、国にとってはお手の物です。
 また、汚染水をコンクリートやモルタルで固めるという案もあります。私自身は、デブリの取り出しなど到底できないので、一九八六年の旧ソ連チェルノブイリ原発事故の時にやったように、原子炉建屋全体を石棺(鉄骨とコンクリート)で覆うしかないと発言してきました。そのためには膨大なコンクリートが必要になりますので、それを作るために汚染水を使えばいいと発言していま
す。
 他にも、地下の空洞に圧入するという方法も提案されています。また、海は表層と深層が混じっておらず、深層に注入すれば千年単位で表層に出ないように閉じ込められると提案している人もいます。

IAEA最終報告書とは

佐藤 放射性物質による被曝には閾値がないわけですから、汚染水の海洋投棄によって健康影響が出ないとは言い切れないと思うのですが、現在では国が率先して「健康影響はありえない」と宣伝しています。メディアもそのプロパガンダに追随しているように思われます。水俣病被害者は、「希釈しても(放射性物質の)総量が減るわけではない。(食物連鎖によって濃縮する)生物濃縮でメチル水銀が人体に影響を及ぼした事実を私たちは水俣病で経験した。人体への影響が明確にならていない段階での放出は許されない」と指摘しています(https://mainichi.jp/articles/20210419/k00/OOm/040/252000c)。
小出 被曝はどんなに微量であっても危険があるということは学問の常識です。ただし、被曝によって生じる健康影響は「非特異的」と呼ばれており、普通に起きている健康影響と区別することができません。たとえば、被曝でがんが発生することはすでに学問的に確定していますが、がんは被曝以外の原因でも発生します。そうなると、仮に被曝が原因で発生したがんも、その原因が被曝であると立証することは容易でありません。そのため、これまでも被曝が原因で起きた健康被害の多くは、因果関係を証明できないまま闇に消されてきました。被曝により健康被害は必ずあるにもかかわらず、それが立証できないため、「健康影響はない」とすり替えられてきました。
 水俣病の場合には、はじめ原因がわからなかったため、患者の多い場所では感染症ではないかなど様々な原因が疑われました。長い年月の後、ようやくに有機水銀中毒であることが確定されました。でも、それまでの間にたくさんの悲惨な被害が出ました。福島の放射能汚染水の海への放出では、その影響は必ず存在します。でも、それを立証することに困難を伴います。
 フクシマ事故の「原発関連死」は認定されただけでも二千人を超えています。それ以外にも膨大な被害を出しながら、加害者である国と東京電力はいまだに誰一人として責任を取っていないし、処罰もされていません。彼らは、放射能汚染水を海に放出しても被害の立証すらできないし、被害はないと言って逃げおおせると思っています。
佐藤 汚染水の海洋投棄に「安全」とお墨付きを出したIAEAの最終報告書についてはどう考えれば良いでしょうか。IAEAの審査は日本政府の汚染水海洋投棄の決定後に行われたため、海洋投棄の正当性を検討していません。これは、被曝量を「合理的に達成可能な限り低く抑える」(ALARA)という彼ら自身の原則と矛盾しているように思われます。
小出 日本人は、権威に弱いです。国はそれを積極的に利用し、IAEAから「安全」のお墨付きもらったと大々的に宣伝し、多くの日本人が、それなら「安全」なのだろうと思ってしまいます。でもIAEAは「国際原子力機関」と呼ばれるように、原子力を推進するための国際的な中心組織です。原子力を利用する限り、放射性物質の生成は避けられません。そして生成した放射性物質のすべてを閉じ込めることはできませんので、IAEAは濃度さえ薄めれば環境に放出してよいと決めた張本人なのです。そして、日本政府はIAEAに対して、海に放流する以外の選択肢をすべて排除し、海に流す場合の安全性についてのみ諮問しました。そうなれば、濃度基準さえ守れば問題ないとIAEAが認めるのは当然のことです。でも、IAEAは報告書で、海に流すことを「推奨するものでも、承認するものでもない」ときちんと書いています。海に流す以外の方策がたくさんあるのに、それらを排除し、海に流すという決定をした後で、IAEAの判断を仰ぐという日本の国の汚いやり方が一番いけないことです。


単なる安全問題ではない

小出 もう一つ指摘しておくなら、今年八月に広島で開かれたG7の会議では、ドイツが福島原発の放射能汚染水を海に流すことに反対しました。もちろんG7の英文の公式声明では、海に流すことを不可欠と認めませんでした。しかし、日本政府がそれを日本語版の仮訳文書にした時には海に流すことは不可欠だと、強引で意図的な誤訳をして報道に流しました(http://anti-hibaku.cocolog-nifty.com/blog/2023/06/post-bc4644.htm1)。多くのマスコミが何の批判をすることもなく、それを流してきました。れっきとした「放射能汚染水」を率先して「処理水」と呼び続けている犯罪を含め、日本のマスコミは政府を監視するどころか、政府の顔色をうかがうだけの組織になってしまっています。
佐藤 最後に、汚染水海洋投棄と、核燃料再処理の関係について、小出さんのお考えを伺えればと思います。
小出 福島原発の放射能汚染水を巡っては、それが安全なのかどうかという議論に押し込められています。被曝は微量でも危険を伴うのですから、被曝に関しては「安全」という言葉を使うこと自体が間違いです。「危険」の程度が高いか低いかの違いでしかなく、被害は必ず発生します。それを防ぐためにも、少なくとも今現在は管理されている放射性物質を意図的に海に流すという選択はとるべきではありません。
 ただ、国にとっては、実は海に流す以外の選択がはじめからないのです。もし、フクシマ事故がなければ、正常運転して燃やした使用済み燃料は、青森県六ヶ所村に建設されている六ヶ所再処理工場に送られ、処理される計画でした。再処理工場とは、長崎原爆の材料となったプルトニウム239を取り出すことを目的にしています。プルトニウム239は原爆の材料にもなるし、原発の燃料にもなります。多くの人が誤解させられていますが、地球上のウラン資源は貧弱で、ウランを使うだけの原子力では未来のエネルギー源になりません。そのため国は「プルトニウム239を効率的に生み出す高速増殖炉を実現する。そうすれば原子力の資源は六〇倍に増える」と言ってきました。そうなったところで、原子力など、化石燃料にようやく匹敵する程度であって、未来の無尽蔵なエネルギー源にはなりません。でもプルトニウム239を利用できないとなると、日本が進めてきた原子力政策は根本で破綻してしまいます。そのため、日本としては、何としても六ヶ所再処理工場を動かそうとしますし、それを断念するとは決して言えないのです。
 その六ヶ所再処理工場は、一年間に原発の使用済み燃料八〇〇トンを再処理する計画です。原発の段階では曲がりなりにも燃料の中に閉じ込められていた放射性物質を、高温高濃度の硝酸に溶かし、様々な化学操作を施してプルトニウム239を取り出します。その過程で、大部分の放射性物質はガラスに固める計画になっていて、それが核のゴミと呼ばれる超厄介なゴミの本体になります。そして、その操作の中で、トリチウムは全く捕捉できませんので、全量を環境に流すことにされています。そして、六ヶ所再処理工場が計画通り運転されるなら、その作業を四〇年間続けることになっています。
 福島第一原子力発電所で熔けてしまった燃料の総量は二五〇トンです。そこに含まれていた放射性物質の始末に今苦闘しているわけですし、捕捉できないトリチウムを海に流し始めました。しかし、もし、フクシマ事故のトリチウムを海に流してはいけないということになれば、総量で三万二〇〇〇トンもの核燃料を処理し、その中に含まれていたトリチウムは全部環境に捨てるという六ヶ所再処理工場は、全く運転できなくなってしまいます。つまり日本の原子力政策が根本的に破綻してしまうのです。
 福島原発の放射能汚染水を海に流さないで済ませる現実的な方策はたくさんあります。しかし、それらをすべて排除し、海に流すのは、再処理という日本の原子力政策の根本と絡んでいるからです。福島原発の放射能汚染水の問題は単なる安全問題ではないことを、多くの人に知ってほしいと思います。
(おわり)


★こいで・ひろあき=元・京都大学原子炉実験所助教。著書に『原発ゼロ』など。一九四九年生。
★さとう・よしゆき=筑波大学准教授・哲学。一九七一年生

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