高橋和巳,あるいは政治の悪?
書棚の本を探してみた.
高橋和巳.
全集は,河出書房新社から刊行された.書棚には,第二十巻だけがあった.
それから,
高橋和巳作品集が,同じく河出書房新社から刊行された.全9巻.
書棚にあったのは,
第4巻 邪宗門
それから,高橋和巳全小説が,これも河出書房新社からでている.全9巻.
これは全巻が書棚にあった.
邪宗門のほかにも,何冊かあったかもしれない.
実家の火災で失われて多くの記憶のなかにあったかもしれないが,もうわからない.
あのころ,学校から帰ってきて,仕事から帰ってきて,かなり集中して読んでいた記憶がある.
いや,高橋和巳だけではなかったけれど..
最近,大本に対する弾圧の顛末を書いた本を読んだ.
特に目新しいことがあったわけではない……と思ったけど,
でも,興味深かった.
そして,高橋和巳の名前を思いだしていた.
もし,もっと長く生きていたら,どんな小説を書いただろうか.
あるいは,もう書かなかっただろうか.
文学作品としてどうなのか,よくわからないけれど,
なにかわからないけれど,とても切迫するような,間違えれば自閉してしまうような,
そんななにかを感じていたか…….
もう30年近く,書棚に眠らせたままだけれど.
そういえば,昔,【日経】の書評欄に,ちょっと保守的な雰囲気の,
しかし,けっして反動ではないし,右というわけでもない,
ちょっといろいろ考えさせるような記事を書く人がいた.
あの会社,文化関係に,意外と――といっては,ちょっと失礼だけど――おもしろい人がいたな.
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春秋
2023/3/29付日本経済新聞 朝刊
先日、読売新聞の歌壇にこんな歌が載った。「『高橋和巳全集』を書架より外す 青春にいざさらばする友」。東京の読者の作品である。作者や友人はどんな日々を過ごし、今に至ったのだろう。この秀歌に触発され、高橋和巳全集の古本をネットで注文してしまった。
▼高橋は、1971年に39歳で早世した中国文学者だ。戦後社会の倫理を問う骨太の著作は、全共闘世代に支持された。村上春樹さんの小説「ノルウェイの森」の語り手は、当時の若者の読書傾向について語っている。「彼らが読むのは高橋和巳や大江健三郎や三島由紀夫、あるいは現代のフランスの作家の小説が多かった」
▼代表作「堕落」の主人公は独白する。「政治的に思弁するということは、それ自体が悪なのだ」。政治の本質は陰謀だ。対立する敵の行動に備えるには、理想を説くのではなく、自らも邪悪な思考を身につける必要がある。歴史を動かしてきたのは、悪人なのだ。「こうした人間に、どんなヒューマニズムがありえようか」
▼国際刑事裁判所に逮捕状を発付され、悪人の評判に箔をつけたロシア大統領。今度はベラルーシに核兵器を配備するという。一方、日本の国会は、わが首相がウクライナ大統領へ贈った「必勝しゃもじ」の当否を議論する。泉下の作家はこの政治状況をどう論評するのか。誰かが書架から外した全集を読み、考えてみたい。