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〔私見卓見〕 行政サービスの信頼確保せよ 政策研究大学院大学教授(公共政策) 吉牟田剛

2023年11月19日(日)

自治体の仕事は間口が広い.
まぁ,国も同様か.

それぞれの部門に,仕事にふさわしい専門的な人材が求められる.
いや,どこかの町長の言い草じゃないけれど,嘱託のおばちゃんでもできる……だろうか.
戸籍や住民登録など,だれでもできる?……というわけでもないだろう.

じゃ,そんな人材は,どこにいるだろうか?

それから,神奈川県の海老名市が,職員の定員を増やすとか,
ほかの自治体との比較でも,少ないのに,人口は増えているから……ということらしいが,
一部の政党からは疑問視する声が上がっているとか.

思い返すと,土光臨調で,公務員の頭数を見直す動きが加速したのは,もうずいぶんむかしの話だ.
多くの自治体で,人が増えなくなったのだろう.
自治体での,過員による首切りなど耳にしないけれど,
それで人が増えないとなると,では,拡大する仕事のメニューへの対応はどうなるだろうか……,
もちろん仕事の量は増えるところも減るところもあるのだろうけれど,
仕事のメニューの変化への対応は,意外とむずかしいかもしれない.
民間はどうだろうか?

人の能力や適性というのは,そんなに強固なものとは思わないが,
それでも新しい仕事への適応には,相応の努力,いや投資が必用だと思うけれど,
誰が,どのように負担するだろうか.
いや,そもそもその変化の必要性を,だれが,どのように説明するだろうか.

とっくにリタイアした身としては,たいしたことは言えなし,言うべきでもないかもしれないけれど,
すこしばかり心配にはなる.
振り返ってみて,メディアや,ときの経営者や,政治家が声高に議論していたことが,どれほど現実のこととなったのだろうか.

メディアでは何も伝えられなかったけれど,
列島の国のマイナンバーカードに類するような取り組みが,カナダであって,
しかしうまくいかないということで,撤回されたとか,そんな話があった.
情報化が必要だ,とは思う.しかし,それが,マイナンバーカードなのか,本当によくわからない.
記事で取りあげられるような,わけのわからない「ポイント」ゲームもまた,同じか.

住民基本台帳というのがある.
紙のデータベースになるはずだったんだろう.
住民票ではないのだけれど,労使を含めて,どう考えているのだろうとは思う.
情報機器,システムの高度化にあわせる……ことも考えなくてはいけないだろうけれど,
その前にいくらでもやれること,やるべきことがあったように思う.
健康保険制度は,イギリス型になるのか,北欧のようになるのか,きちんとした議論なく,
中途半端なままになっている……ようにも見える.それでもほぼ皆保険なのだから,
そこでも臼こそ制度的な工夫がありえたのではないか,と思う.
保険者は違っても,みな同じ席に着いているのだから.
……などと,たらない知識をほりかえしながら,思ってはいる.

で,記事に関連して,デジタル化を民間にお願いして……ということでいいかどうか.
公務員の,公務組織の側の,もうすこし主体的というか,自らを省みて,自らを律する取り組み,
組織のあり方,人事のあり方,人材育成……,なんだかもうちょっと考えてよさそうだと思うし,
民間と言っても,いろいろだからな,と思うのだが.

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〔私見卓見〕 行政サービスの信頼確保せよ 政策研究大学院大学教授(公共政策) 吉牟田剛
2023/7/27付日本経済新聞 朝刊

国や自治体では民間のIT(情報技術)事業者に委託して、住民や事業者に迅速に行政サービスを提供する取り組みが増えているが、取り組みの内容や規模が拡大するにつれて問題も生じるようになった。

横浜市が物価高対策として80億円以上を投じた「レシ活VALUE事業」では、市民が市内で購入した際のレシートをアプリで投稿すると、その最大2割がポイントとして還元された。昨年秋と今年冬に計約80万人がアプリに参加した。しかし、アプリによって獲得したポイントが気づかないうちに失効しているとして、市民からの苦情が相次ぐことになった。

この種の問題解決には委託契約の内容と事業者の規約が重要となる。規約によると、最後にポイント付与を受けてから120日を経過すると、ポイント残高を失効させることができる。しかし、事業開始時の市の配布資料などでは、このことは特に触れていない。また、失効ポイントは事業者に入る仕組みとなっている。

事業開始時に、利用の呼びかけやアプリの登録方法だけでなく、ポイントの扱いなどは十分に周知されるべきだったろう。コンビニエンスストアなど民間事業者は、さまざまなポイント付与活動を行っているが、失効などの場合には事前に予告メールで周知されることが多いはずだ。

今後、ITを活用して行政サービスを円滑に提供するため、委託契約の在り方、事業者の規約内容に関し、ベストプラクティスの共有だけでなく、問題事例の分析、行政や民間事業者団体によるガイドライン策定などが必要だ。

特に行政と受託事業者の役割分担の明確化、ポイントなどの失効期間と通知、失効ポイントの扱い、消費者保護などの目安を示し、徹底することが消費者の信頼確保に欠かせないだろう。

岸田文雄首相はデジタル社会の実現には、国民の信頼が不可欠と述べている。マイナンバーの活用だけでなく、ITによる行政サービスを国民の誰もが安心して使えるよう、国、地方、民間が一体となって環境を着実に整備する必要があるのではないか。デジタル社会の司令塔としてのデジタル庁の役割に期待したい。
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